「きょうしろう」と申します。「夜間低血糖」という妻の見立てに従い、あえて夕食後に甘味を摂取するよう意識して数ヶ月。いわれてみればトイレによる夜間覚醒が明らかに減っていることに気づくこの頃です。睡眠の質が上がったのでしょうか、疲労感も軽減されている気がします。まだまだ気は若い壮年の現役小学校教員です。
今回のテーマは前回につづき「ボール運動」についての提言です。苦手意識の強い児童に対して、技能面での底上げをどう図るか、試行錯誤にある中での中間報告です。
同じ「苦手」でも前回はメンタル面にスポットを当てて考察してみた。今回は、どうにもこうにも動き方が分からない、または動こうにも自分の体をうまく操作できない、といったフィジカル面についての考察をしてみる。まずは自分自身の少年時代を振り返ってみる、といっても「ン十年」も前のことだが、そこそこ動けていた覚えがある。ボールの所在地に向かうだけでなく、相手の動きを見て、先を読みながら走っていたような気がする。まあ、そういう記憶はほぼ例外なく美化や補正がなされているので、恐らくはいま目の前で繰り広げられている混沌ぶりと大差ない状態だったのかもしれない。それでも本人は「動けているつもり」でいたわけだから、段階でいえばBとなる。自他共に「動けている!」数人の猛者がAであり、同じく「自他共に」動けていないと自負している群がCとなる。
ここで考えるべき対象はCの児童。実践してみた施策は4つ。かなり多いですね。
1つめは、よくある「ゾーンの規制」である。バスケットボールやサッカーなど、敵味方が入り混じって動くゲームで使われる方策で、長方形のコートに大きく対角線を引き、片側の三角形内でしか動けないという規制をかけるものである。対角線は一例であり、自陣・中央・敵陣という3つのゾーンに分けるなんて方法もある。いずれにせよ、その目的は「チームの一人または二人がボールを独占し、他者にパスが回らなくなることを防ぐため」である。単元が進むにつれ、段階的にそのゾーン規制を緩めたり、取り払ったりして、本来のゲームに近づけていくことになるので、こういった施策は、あくまでスキルアップの練習として取り扱う「ミニゲーム」と考える。
ちなみに私が第1段階で試したのは、そのゾーン規制をさらに突き詰めて「ディフェンス側はその場から一歩も動けない」とするルール。もはやゾーンですらない。ただし、このルールでミニゲームを行うには「オフェンスとディフェンスの入れ替え徹底」が必須である。ボールをもっている側が相手ゴールを目指してパスを回している間、ディフェンス側はパスカットのみが許され、たとえボールを取り返したとしても、すぐに攻めに転じることはできない。なので、パスカットされたり、途中でボールをコート外に出されたりしたら、一度ゲームを止め、攻撃側は再度自陣からリスタートとなる。それを3回程度くり返したら攻守交替。
一歩も動けないディフェンス陣は、自分の脇1mのところを通り抜けるボールに何とか手を伸ばし、あわよくばそのパスをカットしようとする。苦手意識の児童にしてみれば「動けない」のではなく「動かなくて済む」ので、自分のそばにボールが来たときに手を伸ばすという役目のみ果たせばいいことになる。これならできると感じた児童も確かに存在し、その数名は次の段階でも同程度なら動けるようになる。
その第2段階では「オフェンス側が一歩も動けない」というルールに代わる。正しくは「ボールをもっているプレイヤーだけは動けない」だ。つまりボール保持者はパスを出すしかない。でも送りたい味方の近くに自らが移動することはできない。となると、必然的に「ボールをもっていない味方が、パスをもらえる位置に移動する」しかなくなる。どう動けば分からない児童には、味方から必ず声がかかる。「そっちじゃない。反対側に回って」「もっと離れたところで待ってて」などなど。これ、かなり効果的だと感じた。おっと、その際ディフェンスは、放たれたパスをカットするのみで、相手が保持するボールを横からさらうなんて野暮なことはしない。この約束は基本的にどのレベルにおいても適用したい。
一点注意すべきなのは、ルールの変更は必ず1つずつとすること。ルール①「ディフェンス動けない」が全体に浸透した後にルール②「ボール保持者動けない」を適用。これを徹底しないと、段階を経ていくにつれ、つまりルールが加除変更されるにつれ、混乱する児童が出てくるからである。
第3段階は「ディフェンス側の動きの規制②」となる。行動範囲の制限は撤廃されるが、動きそのものが規制されるというもの。具体的には「ディフェンス側は二人一組で手をつなぐ」という指示である。つないでいる方の手はボールに触れることができないので、片手だけでのパスカットを強いられる。この規制により、ディフェンス側の難易度ははね上がるのだが、他にも上がるものがある。二人一組という特質上、A群に属する「動きが分かっていて、キビキビ動けるA君」とペアを組んだB君は、必然的にA君の動きに引っ張られることになる。これを重ねると、いつの間にかB君もA群並のキビキビさを会得してしまう。遠慮がちだったパスカットも、威圧感のある構えで大きな腕の振りを見せてくれるようになる。もともと「動きの制限」を企図して取り入れた施策だったが、思わぬ大きな収穫だったとニヤニヤしたくなった。ちなみにこの段階でもまだ「攻守入れ替え制」は固持している。
次の第4段階では「手はつながなくてもいいけど、ディフェンスは片手を後ろに隠しておく」というルールとした。あ、これバスケットボールの実践の場合です。つまりオフェンス側の優位はいまだ保たれており、パスが通りやすくなる手立てが維持されているわけだ。だが、この頃にはもう「どう動けば相手チームがいやがるか」「どこにいれば味方からのパスがもらえるか」を考えながら動ける児童がだいぶ増えている。
いよいよ攻守入れ替えのルールを撤廃するのが最終段階。ここで最後の施策となる「数的絶対優位」を取り入れる。ほぼ普通の試合形式で行うのだが、出場する選手の人数に偏りをもたせるというルールである。例えば1チーム7人で試合を行うのであれば、前半は赤チームが5人出場するのに対し、白チームは2人のみ。後半は逆に赤が2人で白が5人となる。自動的に数的優位が確立されるので、そちらのチームはパスが気持ちよく通る。まあ、そこはチームの作戦で、あえて「俺は2人だけの後半に出場して暴れまくるぜ」なんて児童は必ずいるもの。そこまで含めて全体のスキルアップにつなげられればよい。
これまであまり活躍していなかった児童が「このルールすごくおもしろい」「このルールなら楽しめる」なんていってくれたら嬉しいのはもちろんだが、そんな児童が最後には「今度は普通のルールでやりたい」なんてことまでいえるようになったのなら、それはそれでスキルアップの証といえるかもしれない。
スモールステップでルール改変していくミニゲームの工夫は、考える方も楽しく、一つひとつをまるで実験のような感覚で進めることができる。取り入れられそうな施策があれば、ぜひそうしていただきたい。
今回もまた最後までお付き合いいただき、ありがたき幸せです。また、お会いできますように。
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