「きょうしろう」と申します。自らの教育論を振りかざしたり押し付けたりされるのを、人一倍嫌がってきた私ですが、もうとっくにふりかざしてもおかしくない経験年数に達しています。今回のテーマは、子どもに対する「ファイナンシャル教育」の是非についての持論です。
学校は「児童が夢を追いかけることを、大いに応援する」というテーマで以前にもこのブログに投稿したことがある。だが、その応援のしかたにある程度の偏りがあるのではないかということにも触れた。つまり「大人の側が応援したくなる夢なら」という偏りである。スポーツや趣味への没頭なら、大人の側もゆとりをもって眺めていられるだろうが、将来就きたい職業の選択となると、大人の視界はかなり狭まるという印象がある。
スポーツ選手や公務員なら大いに結構だが、YouTuberや起業家はやめた方がいいといった具合。大人が若者の職業選択について是か非かの判断をする基準は、おおむね自分の知識と経験によるのだから、自分が知らないもの、経験したことがないものへの警戒や偏見は、いわば当然の反応だと思う。
実際、学校が道徳等で教える「夢や目標に向かって」的な内容は、ほぼスポーツ選手にスポットライトが当たっている。さらにいえば、そもそも小学校に通う子どもたちは、社会にどんな職業があるのかを分かっていない。つまり、アイドル・○○の選手・○○の先生・○○やさんなど、自分の知っている10~20の職種の中から、いまの自分の興味に近いものを選ぶという方法しかないのだから、大人も子どもも視野が激セマという状態である。
その視野の狭さの表れが、職業的クワドラント(4分割)のうち、片側のみの発想しかないという点。ESBI(Employee被雇用者・SelfEmployee個人事業主・BusinessOwner経営者・Investor投資家)という4領域で分けたところ、被雇用者の立場であるEと、自営業やスポーツ選手などを表すSという2領域しか、子どもの頭にないのである。いえいえ、それって子どもだけの話ではないのですが。とにかく、クワドラントの反対側に位置するBとIの職業にあこがれる子どもを私はこれまで見たことがない。
というより、私自身もそんな領域があることをほぼ知らないままだった。
そんな私の視野を開かせてくれたのも、実はかつての教え子だった。大学在学中に「起業を目指す仲間でつくるサークル?勉強会?」に所属し、そこで起業のしかたを学んでいるという話を、彼は当時の私にしてくれた。起業の方法論というより、おそらくはその価値や意識のもち方を学んだのであろう。
その話を聞いたときですら、私にとってはどこか遠い世界の話だった。だがその後、彼が自分の会社を起こし、大きなビジョンに沿って着実に成果を積み上げ、いまや名前を検索すればいくつものインタビュー記事が引っかかるほどの活躍を見せるほどになっている。
自分の知らない世界を颯爽と歩いている教え子のまぶしさって、言葉で表すのが難しいほどなんです。
そして一方の私は、いつものように子どもと算数の授業をしていたわけである。「1万が100集まると、百万だよ」なんて話を。その流れのあるあるで「百万円ゲットしたら何を買う?」という話題になった。「ゲームの課金!」というのが、いまのトレンドらしい。「海外旅行」も人気だが「家を買う」のもいい。低学年児童にとって「百万円」というのは、なんでも買えるほどの金額だという捉えに、つい微笑ましくなる。そんなとき一人の男の子がいった。「カブを買う!」
聞けばその子は、以前父親とそんな会話をしたことがあり、その際父から原資を増やすしくみについて教わったのだという。株の配当金や売却益など、細かなことまでは分かっていないようだが、それにしても「使うこと」ではなく「増やすこと」に目が向いているのに驚いた記憶がある。その後私から、簡単に株の仕組みについてクラス全体に説明すると、案の定「だったらぼくもそっちにする」となびく児童が多くいた。
「働いてお金を得る」という方法以外に、資産を得る方法があるということを、学校では教えることがない。かつての教え子が起業して活躍しているのは、もちろんビジネスオーナーとしての可能性に魅力を感じたからであろう。一度仕組みをつくり、それを軌道に乗せれば、あとは自分のチームと自分のお金が、自動で資産を増やしていってくれる。まあ、経営者や事業主の憂いはきっとサラリーマンのそれより大きくて多いのも事実だろうが。
とにかく「働かないで得る収入」という考え方について、私たち大人が子どもに「それも是!」と声高に語る場はこれまでのところ皆無である。私だって、あのとき「カブを買う!」と断言した男の子がいなければ、クラスでこんな話をするという発想がなかった。
でもいま、そのファイナンシャルの視点は、特に若い世代に向けて啓発していく必要があるのではないかという思いが日増しに強くなっている。
学校は忙しい。カリキュラムはパンパンで、さらに○○教育や○○スキルが足し算されていくなんて、考えただけでげっぷが出そうだ。だがこういったファイナンシャルリテラシーの視点は、それがまったくの実学であることから、むしろ他の領域の引き算という考え方につながるのではないかという期待がある。
まあ、今後の教育課程がそっちに大きく舵を切ることは考えにくいが、それでも、子どもより視野を広くもつ大人の一人として、なおかつ教育界に身を置く一人として、自分にもできるファイナンシャル教育もあるのではないかと思っている。
長文に最後までお付き合いいただき、ありがたき幸せです。またお会いできますように。
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