「きょうしろう」と申します。小学生が取り組むなわとび技の中でも難易度の高い「二重跳び」で、児童に回数で負けるのが我慢ならない現役小学校教員です。でも子どもたちには、なわとびを好きになってほしいと思いますし、上達してほしいとも思っています。今回は、その二重跳び指導についての私見と提言です。
実はなわとびの二重跳び以外にもあと2つ。小学生のうちにできるようになってほしい体育的スキルがある。25m完泳と、鉄棒技の逆上がりである。なわとびの二重跳びと合わせて3種の神器が備わると、それだけで一目置かれる存在になれる。あとの2種についてもいずれ触れるとして、今回の二重跳びについては、私自身、指導にかなり自負がある。系統立てて、つまりスモールステップで、児童の「できた!」に近づけていくことを楽しんでいる。
第1段階は「とにかく1回」を目指す。コツも何もない。敢えていうなら「高くジャンプして」「速くなわを回す」である。「当たり前じゃん」と、毎回子どもから突っ込まれるが、この2点だけに意識して跳んでみると、おもしろいことに毎回数人が「あ、できた!」と驚き&喜びの声を上げる。
ちなみにこれまでの経験でいうと、こんな指導をする前から、もともと二重跳びができるという児童は1割~2割程度いる。学年が上がるにつれて、その割合が高まるが、高学年でも2割程度といったところ。つまり二重跳びは、できればステイタスだが、できなくてもそんなに気にしないという扱いらしい。だが、一度「とにかく高く」「とにかく速く」という声かけをするだけで、1割程度の児童が新たに第1段階をクリアしてしまう。
そうなると、それを見ていたほかの児童への説得力が一気に増す。「そんないい加減なアドバイスでできるわけがない」と、大方の児童は思っていたものが、そのアドバイスを聞いてできるようになってしまった児童が目の前に現れるのだから「だったら自分もできるかも…」という暗示にかかってくれる。
何度か試しているうちに「あ、できた!」がまた増える。これまで「できるわけがない」と思い込んでいた自分なのに、やってみたらできちゃったという成功体験は、別の場面でも活用できるほどに意義は大きい。
すかさず第2段階。かける声は「ビュビュン・ピョンピョンピョンを繰り返して」である。つまり一度二重跳びができたら、その後止めずに普通の前跳びにシレッと移行せよという指示である。3回前跳びを経たら、また二重跳びを1回入れる。それを繰り返すよう指示する。
実はこの第2段階がハードルとしては一番高い。思い切り高く跳躍し、勢いそのままに着地したら、腰からくだけて座り込みそうになるものだから。
そこで児童は他の子を観察する。もう既に連続で二重跳びができている友だちを見てみると、自分との違いは明らかである。先行するあの子は、そもそも思い切り高くなんて、ジャンプしていないのだ。もっと軽々と跳んで、着地するやいなや、また軽い跳躍を繰り返す。
なんだ、そんなに思い切りジャンプする必要ないじゃないか。後発の児童はそう考える。だが同じように軽い跳躍をしようとすると、なわが2回旋するより先に自分の足が地面に着いてしまうのだ。
だからこその「ビュビュン・ピョンピョンピョン」である。高い跳躍は不可欠であるものの、即座に次の動きに移行できるよう「腰砕けになるのはNG」という条件も加わる。その微妙な力加減を体感するのに「二重跳び⇒普通の前跳び」のスムーズな流れをつかむことが役立つというわけだ。
そこまでできたら、もう一度先達を観察する。まあ、すぐに気づいてくれる児童の方が少ないので、大体はお手本の児童の跳び方を全体で観察した後で「どんなことに気づいた?」なんてことを聞くことが多い。すると、よく見ている児童は必ずいるもので、なわの回し方の違いにちゃんと気づいてくれる。
「手首しか使ってない」と。
腕全体を使って思い切り回すのではなく、手首のスナップだけで回した方が速さが増すというのは、児童にとって意外なことである。だが、またまた目の前でそれを見せつけられたら、試してみたくなるのが小学生の素直さといえる。ここでまた「あ、できた!」の声が上がるのを待って、次の段階の説明に入る。
第3段階は「ビュビュン」の後に入る「ピョンピョン」の回数を減らしていくというもの。この辺りから「もう少しでできそう…」という自覚がある児童に対して、先行している児童を専属コーチとしてあてがってみる。
毎度思うが、子どもどうしの教え合いの場って、本当に意義深いし、何しろ微笑ましい。教えることのやりがいや楽しさは、確かに存在するようで、こういったスキル指導だけでなく、算数の文章問題でも、音楽のリコーダー練習でも、多くの場で「にわか先生」は活躍してくれる。教わる側も気兼ねが少なくて済むらしく、ペアで楽しそうに練習に興じる様子が見られる。当然ながら上達も早い。いいことづくめだ。
この段階をクリアした児童は、別のスペースに集めてから「後は自分たちで練習してて」と伝えるだけでいい。まだ第1段階でつまずいている児童もたくさんいるのだから。
こうしてある程度の割合が「はじめてできた!」を体験する頃に、二重跳び練習の1コマ目が終わる。するとその日の休み時間に自主的に練習する児童が現れる。なので先行する児童は、教える楽しさを再度味わえる。
私もその場にいるはいるのだが、給食直後の激しい運動は体に重くのしかかるので、ほんの少し跳んだら後は「よきにはからえ」と、座り込んでしまうことの方が多い。
こうして少しずつ二重跳びマスターと、なわとび愛好家が増えていく。
まあ、その熱は一過性ではあるが、それでも一度できたことは次回もできる。この経験をできるだけたくさん積ませたい。
次回は、二重跳びが連続できるようになってからの「もう1レベルアップ」について触れる。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがたき幸せです。また、お会いできますように。
コメント